大傑作『Super Mario Run』をデベロッパー目線で読み解く

10/3/2017

精緻な作り込みはスマホ・ゲームを変えるか?

Super Mario Run

発表直後から話題を呼んでいた『Super Mario Run』が、日本時間で12/16の深夜(早朝?)にリリースされました。事前予約の数が2000万を突破するなど、ロケット・スタートが予想されたため「日本のサーバ・チームの働く時間帯を考慮して、タイムゾーンは日本時間。昼過ぎには出るかな」などと考えていたのですが、なかなかリリースされず結局は西海岸時間の朝の公開となりました。

筆者は即座にワールド1–6を購入して、夜にはひとまず全ステージをクリアしましたが、期待通りの完成度に大満足でした。

タイプは全く異なりますが自分自身もゲームを作っているということもあり、気づいたことを書いておきたいと思います。

なおこの記事はゲーム・アプリ開発、ゲーム・ビジネス視点で「Super Mario Run」を理解しようとするもので、ゲーム攻略その他の内容は全く含まれません。予めご了解ください。

1. 操作はタップのみのラン・ゲーム

まずはおさらいを。Super Mario Runは、「プラットフォーム・ゲーム」「ラン・ゲーム」と呼ばれるタイプのゲームです。自動で前方に向けて走り続けるマリオをタップによる「ジャンプ」で操作して迫りくる敵を避け、ゴールを目指すという内容になっています。

似たようなスマホ・ゲームとして『Alto’s Adventure』『Leo’s Fortune』あるいは『Rayman』のシリーズなどがあります。

それぞれ、「タップ・ジャンプのみ」「左右スワイプによる移動+タップ・ジャンプ」そして「自動スクロール」など操作性の違いがあります。同じような画面構成に見えますが、微妙なシステムの違いがゲームの「味」についての大きな違いを生み出しています。

そんな中でSuper Mario Runは、

  • マリオが自動で右に移動する
  • 「タップ」でジャンプ
  • 「ロング・タップ」でハイ・ジャンプ
  • 「ジャンプ」したあとでもう一度タップすると「回転して浮遊」

というシンプルなシステム/UIを採用しています。ただし、マリオの状態によって「タップ」操作のアウトプットが変わります。

2. シンプルな操作で多彩なアクションを実現

前述したように、ユーザーによるマリオの操作はタップのみと限定されていますが、シチュエーションによって動作が変わるようになっていて、シンプルな操作で多彩なアクションを可能にしています。

  • ジャンプしたあとで、壁にぶつかる瞬間にタップするとさらにジャンプ
  • ジャンプ中にスワイプ操作をすることで、左右に飛び分けが可能
  • ブロックの高さギリギリにジャンプすると、マリオが手を伸ばして這い上がる
  • 「→」が描かれたブロックでジャンプすると、矢印の方向にロング・ジャンプ
  • 「||」が描かれたブロックの上を通ると、一時停止、タップで移動再開

などなど。その場面に応じて、タイミングよくタップ操作をすることで、最初の印象より多くのアクションを楽しむことができます。

3. 隠されたもう一つのアクション「オート・ジャンプ」

「タップ」「ロング・タップ」「ダブル・タップ」によるアクションに加えて、段差や敵キャラに何もしないことで発動する「オート・ジャンプ」があります。Super Mario Runでは小さな段差やクリボーなどの単発の敵は、マリオが勝手にジャンプして乗り越えてくれるのです。

この「オート・ジャンプ」は、最初こそゲームを簡略化するガイドとして機能しますが、ステージが進むにつれて積極的に活用する必要がある重要な操作の選択肢に変貌します。例えば低い段差の向こうにコインがある場合など、普通にジャンプしてしまうとコインがとれず、あえて「何もしない」ことで位置を合わせるケースが出て来るのです。

とっつきやすさと奥深さの両方を実現するこのやり方は、マリオの生みの親である宮本氏の”アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである”という言葉を思い出させます。

でも、ときどき、たったひとつのことをすると、あっちもよくなって、こっちもよくなって、さらに予想もしなかった問題まで解決する、というときがあるんですよ。
 — — — HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN — 1101.com

4. 紫コイン・黒コイン集めで姿を表す精緻かつ難解な「死にゲー」「覚えゲー」要素

タップ操作のみで鳥を操作して障害物を避けながらどこまで進めるかを競う『Flappy Bird』は、あまりの難しさが受けてSNSでのバズを呼び、一大ブームになりました

このように1分ほどでゲーム・オーバーになり、即座にやり直す形式は「死にゲー」と呼ばれていますが、Super Mario Runもある意味では死にゲーであるといえます。ただし、マリオを「殺す」のはユーザー自身です。

Super Mario Runは、ゴールを目指すだけなら比較的誰でもクリア可能なゲームで、実際リリース直後に「クリアしちゃった」という声があがるほどでした。

しかし、ステージ中に置かれた「パープル・コイン」「ブラック・コイン」をすべて集めようとすると、途端にゲームが難しくなります。カラー・コインは絶妙な場所に配置されていて、ほんの小さな操作ミスでもマリオが通り過ぎてしまうからです。自動的に右方向に進むシステムのため、一度コインを通過してしまうと、マリオのライフをひとつ減らして、少し戻ってやり直す必要があります。さらに3つのライフを使い果たすと、ステージの先頭に戻る必要があります。カラー・コインを集め始めてからは、少しゲームを進めてはやり直すループをひたすら繰り返すことになります。

またカラー・コイン集めを1回でクリアすることは難しく、何度もプレイをして配置と操作を「覚える」必要があります。Super Mario Runは、最初は簡単なのにやりこみをはじめると途端に難しく繰り返し遊んでもらえるようにデザインしているゲームなのです。

5. UIとレベル・デザインのハイレベルな融合

事前の告知で「タップ操作のみ」と知ってから、そんな単純なゲーム性で大丈夫なのか?スマホ用マリオは簡易版なのか?と心配をしていましたが、実際にプレイすると印象が大きく変わりました。

「お化け屋敷」ステージでは、画面の左右の端でマリオが反対側にワープする仕掛けになっています。マリオ・シリーズではおなじみのギミックですが、これにより右にしか移動できないUIの制約がありながら、自由自在に画面中を移動できるできるようになっています。

画面の両端はつながっているので、右方法の移動だけで隅々まで探索できる

またゲームの要所要所に「一時停止ブロック」を配置することで、タイミングを見計らって通過するというゲーム性も実現しています。

このようにシステムとしては究極のシンプルさを保ちながら、ブロックの配置などレベル・デザインの絶妙さによって多彩な印象を与えることで、紛れもないマリオ・シリーズという出来栄えになっているのです。

優れたUIは、そのUIの可能性を追求したコンテンツとの合わせ技ではじめて真価を発揮するということを、改めて実感しました。ここまで練られたレベル・デザインは、スマホ・ゲームではなかなか見かけないのではないでしょうか。

6. スマホ・アプリとしての『Super Mario Run』

さて、ここまでゲームとしての完成度の高さについて書いてきましたが、Super Mario Runは任天堂として初めてのスマホ・ゲームであり、イマドキのスマホ・ゲームとしてはどうなのか?という点について触れておきます。

まず最初に驚いたのは「シェア」をする機能がなかったという点です。TwitterやFacebookといったSNSは、スマホ・ゲームの認知を高めるための手段として広く利用されており、特にこうしたカジュアル・ゲームにおいては「プレイ動画のシェア」「ステージ・クリアなどのアチーブメントのシェア」ができるようにするのが一般的です。Super Mario Runにはこうした機能は用意されておらず、SNSに対しては閉じた設計になっています。任天堂独自のフレンド・ネットワークは用意されていて、LINEやメールを通じて招待状を送ることはできるので、独自のネットワークを構築したいという戦略なのかもしれません。

また、現段階ではステージを追加するなどの「アップデート」を行う予定はアナウンスされていません(2016/12/21追記: 運営で提携しているDeNAがバグ修正以外のアップデートはないとコメントした模様)。1200円を支払うと以降は課金の必要がない「買い切り」方式のためですが、ユーザーの反応を見ながらゲームの調整を行い、アップデートを繰り返してつなぎとめを行う今時のスマホ・ゲームの戦略は全くとりいれられていません。

この2つを合わせると、Super Mario Runで新しいプラットフォームに参入した任天堂が、ゲームのつくり方やユーザーとの向き合い方についてはまだ従来の姿勢を崩していないということが言えると思います。

7. 1200円買い切り方式の賛否両論

Super Mario Runは、いわゆる「無料プレイ+アイテム課金」の方式をとらず、ゲームそのものに1度だけ課金をする「買い切り方式」の商品となっています。

岩田:私は「フリー・ツー・スタート」と呼んでいるんですけれど、そのこと自体、以前から否定していません。ただ、フリー・ツー・プレイというのは大多数の人がタダで遊んで、一部の方からたくさんの課金を得るという前提だと思いますが、無料で始められるけれども、その後、大多数の方が適切な対価を支払っていただく形のほうが、私は健全で長続きすると思っています。
 — — — 任天堂・岩田社長が語る「DeNAとやりたいこと」:日経ビジネスオンライン

故岩田社長はスマホ向けゲーム参入発表後のインタビューでこのように発言しており、今回の販売方法はこの考えに従ったものと思われますが、一部では不満の声もあがっているようです。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ19H97_Z11C16A2000000/

まだリリースから日が浅く、またネットではネガティブな評価が目立つ傾向があるため販売方法についての評価は難しいところですが、前のパラグラフでも指摘した任天堂の独自戦略がどこまでスマホ・ゲーム市場で機能するのかは注目したいところです。

8. ゲーム・エンジンとして「Unity」を採用

Super Mario Runのリリースが近づいた11月、ゲーム開発者に人気のエンジンUnityが新しいマリオがUnityを使って開発されていることを発表しました。

Unityは、ゲーム開発のための便利なライブラリと視覚的に開発が行えるエディターを組み合わせた製品で、一度開発すると同じプロジェクトからAndroid/iOS/macOS/Windowsなどの複数のプラットフォーム向けにゲームをパブリッシュできる機能などで人気があります(筆者もUnityでゲームを開発しています)。

コンソール向けゲームのメーカーは社外のツールを使わない印象もありましたが、最近はUnityを使うケースも増えているようです。今後のタイトルも継続してUnityを使うのかは分かりませんが、あの「マリオ」が自分が使っているのと同じツールで作られているというのはなかなか嬉しいものです。

9. AppStoreの「通知」機能とは何だったのか問題

Super Mario Runの発表と同時にAppleはApp Storeでアプリ・ページを公開。リリース時にユーザーにお知らせを送る「通知」ボタンを設置しました。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ19H97_Z11C16A2000000/

この機能はSuper Mario Runで初めて使われたものであり、いまだに他のアプリでは利用できないことからも、このゲームが特別扱いであることが伺えますが、リリース当日にゲームをダウンロードしたあと「あれ?結局通知こなかったな」と思った人も多かったのではないでしょうか。

実は通知はApp Storeアカウントに登録されたメールアドレス宛に送信されており、しかもユーザーのもとにメールが届いたのはアプリ公開から数時間たった後でした。

恐らく多くのユーザーがPush通知で連絡がくると思っていたのではないでしょうか?しかもこれだけ話題のアプリなので、SNSなどで先にリリースを知った人も多く肩透かしのような結果になりました。

恐らくどこかのタイミングですべてのアプリに「通知予約」の機能が提供されると思いますが、ぜひPush対応と即時告知に対応してもらいたいものです。

まとめ

Super Mario Runは、スマホというプラットフォームで従来のマリオらしさをきちんと表現しながら、タップ操作のみでの奥深さを追求し高い完成度を達成した大傑作です。

一方で特に運用面でスマホ・ゲームらしさに欠ところも多く、これが今後も一貫して続く任天堂のポリシーなのか、それとも少しずつ歩み寄りを見せていくのかは気になるところです。

同じくiOS/Android向けにゲームを作っているデベロッパとしては、ゲームの流行や課金のスタイルなどに影響を与えるかが気になっていましたが、その変化が現れるのにはもう少し時間がかかるかもしれません。しかし、こうした完成度の高いゲームの登場でスマホ・ゲームの世界がさらに進化する、あるいは自分達がさせなければという思いを新たにしました。みなさんも、ぜひ遊んでみて下さい。


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